「The Shoe of Life (シュー・オブ・ライフ)」では、2012年ころからスニーカーの修理を承る機会が増え始め、2016年頃から本格化してきた経緯があります。
その中でもニューバランスの修理は増え続けています。理由はいくつか考えられます。まず一つ目は、修理の依頼のあるニューバランスは、海外製やプレミアムな日本製のモデルで、価格が3万円前後する、高価なものであるからだと考えられます。高価なシューズは、直してでもできるだけ長く大事に履きたいと思うのが、
人情ではないでしょうか。
また、もう一つの理由として考えられるのは、ニューバランスは修理ができる構造と物性であることだと思います。
スニーカーと一言で言ってもその構造や物性は多様です。
原状復帰という意味では、修理ができないスニーカーの方が多いといえるかもしれません。
なぜニューバランスは修理ができるのか?
先ほども申し上げた通り、スニーカーといってもその構造や物性は多様です。最近では、アッパーを糸で縫い合わせていない様なスニーカーも多く見受けられます。アッパーを糸で縫っていないということは、特殊な接着で張り合わされているということです。しかも、スニーカーは大きく分けて、上部のアッパーと下部のソールに分かれます。それぞれの加工は、アッパーとソールを接着する前に行われます。アッパーとソールが接着された状態から加工する修理とは、根本的に順序が違います。その様な前提からすると、修理がしやすいスニーカーはアッパーが縫い合わされている方法でソールも剥がして再接着が出来る製法と言えます。それは、いわゆる従来の「靴」と根本的に同じ作り方といえます。
すなわちNew Blanceは、「スニーカー」というよりも、どちらかというと「靴」とも言えます。
いわゆるつま先の心材の先芯や、カカトの心材のカウンターも靴の様に入ってます。アッパーのデザインはスニーカーのパターンですが、表革と裏革をミシンで縫い合わせているという意味で「靴」と
同じといえます。
ソールも、セメンテッド製法の「靴」と同じように木型を使いアッパーを釣り込み、ソールを接着します。このようなところも「靴」と同じ製法といえます。
ソールがヒールのあるような従来の「靴」のソールか、ニューバランスの様なEVAと合成ゴムで作られたスニーカーソールか。それだけの違いです。
服好きの方ならピンとくるかもしれませんが、シャツ縫製工場で作られたジャケットは、品質としてはシャツですが、見た目の形だけでいえば、「ジャケット」と言えます(逆にすこし話がややこしくなったかもしれません…)。
スニーカーはライニングも袋縫いですし、合成素材も多用されているものも多く、またパターンも複雑です。修理もいわゆる従来の「靴」よりも気を遣う場面が多いのはたしかで、スニーカー修理に対して熟練する必要もあります。
しかし、本質的にニューバランスは「靴」と同じ構造と品質です。したがって靴修理職人が修理が可能であるという訳です。
さて、その様な背景からニューバランスの修理が増えているわけですが、よくご依頼いただく修理箇所も多様です。壊れる部分はほぼ決まっています。
まずニューバランスの修理で一番多いのは、かかと部内側のライニングメッシュの破れです。ここは、歩くと擦れやすく、擦れているうちに内側のメッシュが破れてしまいます。これは寿命です。ナイロンメッシュは摩擦には強くないと思われます。その結果、破れて穴が空きやすい部分です。修理では、ここを摩擦に強い本革を使用し修理します。
そして、こちらはニューバランスの修理でもっとも“有名”ともいえる、ソールの加水分解の修理です。加水分解の修理方法は、二つあります。一つは、VIBRAMソールに交換することです。
すこしイメージは変わりますが、新しい魅力を持ったニューバランスに生まれ変わるための
リメイクというイメージです。
履き心地もさすが、信頼のVIBRAMです。
間違いありません。
もう一つは、スポンジでEVA部を作り直し、オリジナルソールを流用するか、
VIBRAMのスニーカーアウトソールで交換するという修理です。
デザインとしては、こちらの方がオリジナルに近いイメージになります。この様なソールの交換をすると、ニューバランス特有の加水分解を起こさなくなります。
お気に入りのニューバランスは、履けない状態になってしまってもあきらめず、ぜひソールの交換をお勧めします。
タンも加水分解します。見た目に強烈な劣化の印象を与えるのが、加水分解です。このような場合は、タンを本革で作り直すしかありません。
こちらもおすすめの修理です。
そして、最近お問い合わせの多い修理が、カウンターの交換です。
カウンターとは、かかとの内側に入っている心材です。
この心材は、かかとをフォールドし快適な歩行にとても重要なパーツです。
「シュー・オブ・ライフ」では、高級紳士靴に使われる革のカンター芯で、交換する修理を行っています。プラスチック製のものより変形しにくく長持ちします。
そのほか、要望が増えているのは、修理と合わせてのスニーカークリーニングです。こちらも、ハイグレードのNew Blanceのアッパーは本革を使用していますので、革靴のケアと同じ手法で革を綺麗に蘇らせることが出来ます。
こちらも、「ニューバランスは靴である」理論の根拠となる理由の一つです。スムーズレザーであれば、革靴と同じように靴クリームで補色しつやを出せます。いわゆるハイポリッシュも可能です。
スエードも、補色と保革で靴の手入れのように、アッパーをよみがえさせる事が可能です。
今回は様々なニューバランスの修理をご紹介させて頂きましたが、ニューバランスの修理の方法は、とても沢山あることがおわかり頂けたかと思います。
修理が出来ないスニーカーも多い中、これだけ修理ができて、長く愛用できるスニーカーは稀です。これだけニューバランスが愛される理由も、この様な修理をして、長く履けるという要素も大きいのではないかと思います。
靴修理店として断言する「ニューバランスは靴である」をモットーに、これからも一足でも多くのニューバランスを修理して、生き返らせていきたいと思っています。
そして今回は、この修理したニューバランスを、「CARUSO」のブラウン ウールギャバジンスーツに合わせてみました。スーツにニューバランスを合わせるのは、今や定番ともいえますが、このコーディネートがしっくりくる理由は、やはりニューバランスが「靴」だからではないでしょうか。
今週末は、このニューバランスを履いて、事務所から徒歩20分程度にある、東京で一番好きなカフェ「Caffe Michelangelo」にお茶しにでかけたいなと思っています。